次代の学びを支えるデジタル学習環境の充実を
GIGAスクール構想もNEXTステージ。目的とした「子供たち一人一人に公正に個別最適化し、それぞれの資質・能力を確実に育成する」という目標はどれほど達成できているでしょう。国際教育到達度評価学会のTIMSS2023の結果が昨年12月に公表されました。算数・数学、理科ともに学力は平均的に見れば従来通り高い水準でした。しかしながら、自律的な学びにつながる、理科や算数の勉強が日常生活に役立つとの意識や、勉強が楽しいという意識はまだまだ低い状況です。一昨年公表されたPISA2022の報告でも、数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーの3分野全てにおいて世界トップレベルでした。素晴らしいことです。しかし、ここでも、自分で学校の勉強をする予定を立てるや、言われなくても学校の勉強にじっくり取り組む、自分でオンラインの学習リソースを探すなど、自律学習を行う自信を問う項目ではOECD加盟国37カ国中34位と低い状況です。
今から半世紀ほど前、コンピュータの教育利用が始まった初期、Appleコンピュータを開発したSteve Jobsは、個の理解度、学習速度に応じた指導にコンピュータを使うと同時に、コンピュータは子どもが興味関心のあることを追求する道具であるべきとの考えで、自ら開発したコンピュータを知の自転車「Bicycle for the mind」と名付けました。自転車に乗れば、自分の力でどこまででも好きなところへ行くことができる。子ども達にとってのコンピュータは、自分の思いを形にする知の道具であるべきとの思いだと言われています。文部科学省の、「学習指導要領の趣旨の実現に向けた 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」(令和3年)では、個別最適な学びについて「指導の個別化」と「学習の個性化」に整理されています。指導の個別化では、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うこと、「学習の個性化」では、子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供するとされています。GIGAスクール構想で、児童生徒が一人一台端末を持つ時代になって、ようやくJobsの知の自転車を乗りこなす子ども達の姿が現実のものとなってきました。
指導の個別化にせよ、学習の個性化にせよ、一人一人の子どもの学びに寄り添う教員の力量が益々求められるとともに、デジタル学習環境、とりわけ興味関心や能力に応じたデジタル・リソースの充実が求められる時代です。先のTIMSSの報告でも、学校で、デジタル・リソースが十分に使える、それらの教材が学習を楽しくしてくれるという項目がありますが、まだまだ低い評価です。昨年、教育の情報化を先駆的に進めている台湾の教育省を訪問し、これからの教育についての意見交換で、小中高等学校デジタル学習精進プロジェクトの話を伺いました。小学校1年生から高校3年生までを対象に、「デジタル学習コンテンツの充実」「モバイル端末の提供および無線ネット接続環境の整備」「教育関連ビッグデータの収集・分析」という3つのプロジェクトで教師の支援と児童生徒の自己調整学習能力と学力の向上を目指すとのことです。特に最後のビッグデータの収集と分析結果として、日常的に端末を活用している児童生徒にあっては、情報活用能力とともに自己調整学習能力が年次変化で向上しているデータを見せていただきました。まさにプロジェクトの成果とのことです。
GIGAスクール構想が4年を経過し、NEXTステージでは教育データの利活用が求められています。児童生徒の学びの軌跡を彼ら自身が振り返り、自らの学びを舵取りできる自律的な学びは、OECDのラーニングコンパスが求める次代の教育です。教員も指導の個別化にデータを活かす時代です。
本会には、教育DXで明日の教育を支援する多くの企業が集っています。児童生徒の興味関心を引き出し、伴走者となって共に学ぶ教員、教育委員会、研究者の皆さんとともに、次代の学びを支えるデジタル学習環境の充実に、本年も、より一層取り組んでいきたいと思います。
一般社団法人 日本教育情報化振興会
(JAPET&CEC)
会長 山西 潤一
2025年1月吉日