自律的な学びを育てる環境づくりを
GIGAスクール構想もNEXTステージに入り、端末やクラウドの日常活用が進んできています。令和5年度の全国学力・学習状況調査結果によれば、ほぼ毎日ICT機器を活用している学校の割合が小中学校ともに6割を超えたといいます。Society5.0時代に生きる子どもたちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶ学習のマストアイテムと言われた環境と活用がようやく現実となってきました。2005年に文部科学省「地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」で座長を務めさせていただき、2007年に報告書を公開しました。1人1台の端末を持っての授業と、今と全く同じICT学習環境を描いたのですが、こんなに毎日ICTを使う教育はおかしいと、多くの先生から批判をもらったことが懐かしく思い出されます。教育の内容も方法も時代とともに変化すべきでしょう。今まさに教育のパラダイムシフトが起こっているのです。しかし、先の結果でも、週1回から月1回未満しか活用していないとの回答がまだ1割近くあります。この環境で学ぶ児童・生徒の情報活用能力が心配です。
さて、昨年末、PISA2022の結果が公表されました。数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーの3分野とも世界トップレベルとの結果です。その要因の一つに、生徒の情報活用能力の向上で、CBTへの適応力が増したとのこと、ICT学習環境整備の成果といえます。しかしながら、次代に求められる「自律的な学び」について課題も見られました。例えば、「学校が再び休校になった場合に、自律学習を行う自信がありますか」との設問では、OECDの平均を大きく下回り最下位に近い結果でした。別の国際比較、国際教育到達度評価学会(IEA)のTIMSS 2019によれば、算数・数学や理科の勉強が楽しいと答える児童・生徒の割合は、小学生ではOECDの平均値よりも高いのに、中学生になると平均値をかなり下回る結果です。又、その勉強が日常生活に役立つという思いや、将来、それを生かした職業につきたいという回答が、同じく国際平均よりかなり低い結果です。点数で測られる教科の知識理解のみならず、これからは、学ぶ楽しさ、何のために学ぶのかという学びの意味が実感できる教育、自律的な学びを育てる教育がより一層求められます。教科横断的な学び、STEAM教育やアントレプレナー教育もその一助になるでしょう。そのためには、活動のための環境や良質な学習コンテンツが必要です。アクティブ・ラーニングが進むオーストラリアで、生徒が自らのアイデアを形にするMaker Spaceを見聞する機会がありました。プログラミング環境はもとより、工作のためのさまざまな道具、指導のための技師が配置された中で、生徒は個々人の興味で社会に役立つ作品づくりに、皆熱心に取り組んでいました。もちろん、わからない時にはネット上のコンテンツを活用するのはいうまでもありません。一人一台端末になったのだから、コンピュータ室は不要との学校や教育委員会のニュースがありましたが、何をか言わんやです。自律的な学びを育てるためにも、映像開発や高度なシステム開発を可能とするコンピュータ、ものづくりのための工作機械などが整備された、クリエイティブな活動スペースを作りたいものです。
本会には、教育の情報化で明日の教育を支援する多くの企業が集っています。「偉大な教師は生徒の心に火をつける」と言われます。児童生徒の興味関心を引き出し、伴走者となって共に学ぶ教員への期待はもとより、志ある皆さんとともに、自律的な学びを育てる環境づくりにより一層取り組んでいきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
一般社団法人 日本教育情報化振興会
(JAPET&CEC)
会長 山西 潤一
2024年1月吉日