1.プロジェクトの概要
(1)目的
本プロジェクトは、学校や教育委員会を訪問し授業見学や先生とのディスカッションを通じて教育現場でのICT環境整備及び活用の状況や様々な課題を把握することを目的としている。
- テーマ
GIGAスクール構想で整備された、教育ICTの最新の活用状況の変化や、遠隔授業などの最新事例などについて先生がたに直接お話しを伺い、知見を集める。また、アフターGIGAスクールを見据え、学校でのプログラミング教育の状況を会員企業外も交えて話しを伺う。 - 課題把握
「現場の先生が、何を求め、何に困っているのか」をソフトウェア、教材コンテンツ、ハードウェア、通信環境、教科書、教室の什器やレイアウトといった視点から捉え、参考になるような知見を集める。 - 解決策の議論
各参加企業の視点で見学校の成功例や失敗例などの課題を探る。企業の視点から解決策を議論する。
サブテーマとして「GIGAスクール構想で導入後の課題や問題点を探る」「プロジェクトメンバー同士が交流し、協業などお互いのビジネスに繋がる情報共有を行う」「メンバーのオフィス訪問や事業内容紹介を行う」といったことも含め活動した。
(2)活動方針と活動の概要
2021年5月25日に開催された全体会において、プロジェクトへの参加希望者と活動方針の協議を行い、主に以下の3点を活動の柱とした。
- メンバー各自の紹介により、GIGAスクール構想の状況や、遠隔授業などを実践された学校の取り組みについて、学校関係者を講師に迎えオンラインセミナーを行なう
- メンバー各自のコロナ渦の取り組み、GIGAスクール構想の進捗状況などの報告
- その他(委員間の各種情報交換など)
今年度は36名のメンバーの参加があり、11回のプロジェクト会議を行なった。うち3回で公立の小学校・高等学校の教員、教育委員会にお話しを伺った。
2.活動の成果
2021年は新型コロナを抑え込めない状態であり、可能であれば学校訪問を行い、定例会に遠隔講師を招きGIGAスクール等の実践状況を調査した。
(1)授業見学及びヒアリング
本プロジェクトの主となる活動であり、2021年度は小学校1校、中学校1校を訪問した。これ以外にも4校の訪問の計画をしたが、コロナ禍のためやむなく中止とした。授業見学・教育委員会ヒアリングにあたっては、各メンバーがコーディネーターとなり、それぞれ学校・教育委員会と交渉し日程調整、参加希望者を募り訪問を実施した。授業見学・研修見学後には、授業者や管理職の方々へのヒアリングや意見交換を行い、知見を深めることができた。
- 私立洗足学園小学校
- 横浜市立鴨居中学校
(2)遠隔講演及びヒアリング
学校訪問が実施できない中、オンラインにて継続できる活動として、GIGAスクール構想への対応状況をヒアリングする取り組みを実施した。2021年度は小学校2校、高等学校1校、1つの教育員会に対しセミナー形式のヒアリングを行なった。ヒアリングにあたっては、各メンバーがコーディネーターとなり、それぞれ学校・先生がたと交渉し定例会にあわせて実施した。セミナー後には、質疑応答及び意見交換を行い、知見を深めることができた。
- 静岡県立掛川西高等学校 吉川牧人先生
- 丸亀市立城乾小学校 増井泰弘 先生、浜松市立雄踏小学校 菊地寛 先生
- 奈良市教育委員会学校教育課情報教育係長 谷 正友 氏
(3)その他
- メンバー所属企業の近況報告、GIGAスクール構想の導入現場の進捗、導入現場の課題など議論した。
- 文部科学省GIGAスクール構想に関する情報共有などを行なった。
- ソニーマーケティング株式会社にお願いし、定例会にてプログラミング教材MESHのワークショップを開催しMESHを使ったプログラミングを体験した。
3.学校訪問・遠隔講演報告
【学校訪問】私立洗足学園小学校(2021年6月7日と14日) 記:山川(エプソン販売)
見学テーマ | ICT利活用授業:タブレット端末・大型提示装置 等々を活用した授業 |
基本情報 | 普通教室:1年~6年 各2クラス(約40名/クラス)⇒タブレット端末(iPad)、大型提示装置(EPSON天吊プロジェクター2台で大画面2面投影)、ロイロノートなど |
授業の内容 | 5・6時間目社会・算数(4年)、国語・理科(3年)、生活(1年)、算数・国語(2年)、算数(5年)、社会(3年)参観 (7日) |
ICT活用場面 多くの授業を見学させて頂いた。以下主な活用を挙げる。 社会:各自端末で、地図アプリを表示し調べる。テキストを埋める。各自調査希望都道府県を入力、ロイロノートで集約し、担当先を決める際は大型提示装置へ投映し実施する。 算数:大型提示装置で問題を表示。作り方例を示す。端末内ジオボードで図形を作成。進捗を共有する。完了後、代表者の内容を投映共有し、意見交換する。 国語:書写(毛筆)の授業でスクリーンに見本等を提示する。 算数:先生が自宅からオンライン授業を実施した。教室のスクリーンに先生のiPad画面を共有しながら課題を示したり見本をみせたりして動画と画像を併用し説明した。 |
ICT活用のお奨めポイント ・普段使いで、調べて資料を作成する。それを共有・発表を行う。 ・端末に入力し意見集約や個々の希望集約しながらコミュニケーションを図る。 ・2台のプロジェクターで2画面を使い、一方に課題や見本を表示し、もう一方でタイマーや進捗状況などを表示し使い分けながら授業を展開する。 ・作成物を保存することで、次回の授業で振り返りをすぐに実施でき、次の授業内容へ進んでいる。 ・リモート授業の実施(Zoom)。児童もそうだが先生が自宅から授業を実施している。 ・先生が全員、ICTを活用している。板書がほとんど無く、教員用端末で授業展開している。 |
ICT活用における把握した課題・対策など ・デジタル教科書など有料なものへの対応が難しい。家庭への負担はできない。→ デジタル教科書の規定など今後の私立に対する方針にも依存する。 ・自宅でのトラブル(端末)→家庭での約束事は通知し、徹底頂くことを適宜繰り返す。 ・更なる学びの向上を図る→教員の研鑽。他校の事例など参考にすることもひとつ。 |
【学校訪問】横浜市立鴨居中学校(2021年7月1日) 記:南(プラス)
見学テーマ | ICTを活用した学校改革について |
基本情報 | 普通教室、モニター(Panasonic製プラズマTV)、タブレット端末(Chromebook)、Google Workspace for Education、充電保管庫 |
授業の内容 | 3年3組(吉岡先生)・2年2組(飯田先生)の授業(ともに理科)を見学 |
ICT活用場面 学年の異なる2クラスの授業(理科)を見学し、総じて以下3点の活用がなされていた。 ・理科の授業では必ずChromebookを活用していた。Googleクラスルームを使い、各生徒に授業内容レポートを共有し授業効率化を実現していた(プリント作成配布減・プリント消失のリスク回避)。 ・他の生徒のレポート結果と自身のレポートを共有し、比較し、参考とすることができる。 ・レポート提出状況をオンタイムで把握できるため、クラスの進捗に合った指導ができる。 |
ICT活用のお奨めポイント ・上記記載の通り、授業でのICT活用により準備・指導について効率化を実現している。 ・ミライム(勤怠管理・スケジュール管理)、ABC(デジタル採点システム)、COCCO(家庭と学校の情報共有システム)等システム・アプリを導入し、先生の業務効率化を実現している。 ・Studyplus for School(学習管理)やLINE等のアプリを駆使し、不登校・長期欠席生徒の学習支援においてもICTを活用し、先生・生徒間のコミュニケーションを実現している。 |
ICT活用における把握した課題・対策など ・先生や生徒(一人一人の家庭の環境も含む)それぞれのICT活用の知識・理解度や環境(ネット環境、目の酷使等の健康課題、親の許容度…ネットをやらせたくない等)の「差」を今後どう埋めていくのかが課題である。学校だけではなく家庭環境も関係しており複雑な問題である。 ・生徒によってはPC・タブレットの取扱い知識が低いため、機器を使いこなす事だけで手いっぱいになり、使う事が目的となってしまっている場面がみられた。ICT機器はあくまで「ツール」であることを意識させ、使いこなせるように指導していく必要がある。 |
【遠隔講演】2021年7月13日(火)16:00~17:00 記:三木(エレコム)
遠隔講演者 | 所属:静岡県掛川西高等学校 役職:教諭 氏名:吉川 牧人 先生 |
講演テーマ | 静岡県立学校でのICTの取り組み |
(1)講演概要 県立高校におけるICTの取り組み、新型コロナによる臨時休校への奮闘、その後についてお話しいただいた。 ・掛川西高校について ・新型コロナウイルスによる臨時休校に立ち向かう ・総合的な探求の時間におけるICTの活用 ・休校後のICTを活用した授業の取り組み ・コロナ後の活動 ・ICTは生徒と社会をつなぐもの |
(2)おすすめポイント ・限られたICT環境、文化の中で県、職員、生徒、家庭を巻き込んだ取り組みの進め方 ・ICTモデル校にまでなる取り組み ・ICTを通じた新しい授業価値の創造 ・具体的なICTツールを使った遠隔授業紹介、社会活動、共創授業の紹介 |
(3)把握した課題、感想など 課題:「ICT設備の強化」と「活用の土壌の熟成」が容易に達成できない。 対策: ICTベンダーは、機器の提案ではなく、こういった取組も一緒に行う必要があり、ICTに関わる先生だけでなくICTベンダーも生徒、教員、行政の輪に加わることが必要である。 全体を通しての感想: 現場の創意工夫で、生徒を中心に、家庭、行政を巻き込んだ土壌の熟成から生徒と社会がICTを通じて繋がるような取り組みが印象的であった。 ICTが提供できる価値が多い中で、あくまで一企業の個人としては機器のベネフィットに留まるような提案や認識しかなかったことを反省している。 ICTの可能性は現場や生徒、職員、保護者の利用者が広げていっていると感じておりより多くのお声を聴いて、取り組んでいきたい。 |
【遠隔講演】2021年9月14日(火)16:00~17:00 記:谷貝(NECフィールディング)
遠隔講演者 | 所属:丸亀市立城乾小学校 役職:教諭 氏名:増井 泰弘 先生 所属:浜松市立雄踏小学校 役職:教諭 氏名:菊地 寛 先生 |
講演テーマ | タイトル:コロナ禍の中で休校対応 コロナ対応・休校対応・遠隔授業・プログラミング・小学校外国語・道徳・BYOD・その他新学習指導要領関連・その他(公立学校の整備状況共有) |
(1)講演概要 GIGAスクール構想が始まった中、公立の学校現場でどのような課題に直面しているのか、生の声を情報共有いただいた。 |
(2)おすすめポイント 本講演では、教育委員会側と学校側で情報連携がうまく出来ておらず、学校側が非常に苦労された点を確認することができた。また、GIGAスクール構想の準備段階から今に至るまでの活動内容を知ることができた。 |
(3)把握した課題、感想など 課題: ・学校現場では、様々なトラブルが発生し、試行錯誤しつつ改善を図る必要があった。 ・タブレット端末の利活用方法について、管理職に中々賛同頂けない状況があった。 感想: 学校現場の先生が直面している生の声を聴くことができて大変参考になった。特に校長会を含む管理職に「どのよう点を訴求していけば、ICT活用を積極的になって頂けるのか」を考えていく必要があると改めて感じた。 |
【遠隔講演】2021年10月12日(火)17:00~18:00 記:須藤(富士通)
遠隔講演者 | 所属:奈良市教育委員会学校教育課長 役職:情報教育係 氏名:谷 正友 氏 |
講演テーマ | タイトル:GIGAスクール構想の取組みについて ~次世代の担い手である子どもたちへ~ コロナ対応・休校対応・遠隔授業・その他(県全体で協働調達) |
(1)講演概要 ・奈良県は、もともとICTが苦手な県であったが、GIGAスクール構想推進を県全体で共同調達し、先生向け応援プログラムを継続的に実施した。県全体でやることで国からの後押しを得られやすくなった。 ・GIGAスクール1人1台端末は、普段から使っていないと定着しないため、普段使いを定着すするために学校、家庭学習以外にも、地域の教育活動イベントでも活用した。 ・セキュリティは子どもたちへの過度な規制ではなく、利用しながらリスクを理解し回避する経験を通して、学習できる環境を実現した。 |
(2)おすすめポイント 【GIGA端末の活用】 子どもたちにとっても、教師にとっても「なくてはならないもの」にするために、普段使いを進め、低学年から利用させ、教師への研修などで浸透を図った。 【保護者向け勉強会】 保護者にGIGA端末利用について保護者同意の元での運用ルール設定を行ったことで、端末利用への理解が促進された。 |
(3)把握した課題、感想など ・ICTは積極的にやりたい先生は1割、やりたくないが2割、どちらでもいい人が7割だが、2割のやりたくない人もオンラインをやりだした。ICTを使わざるを得ない環境でやったら「こっちの方がラク」という声もあった。経験したことがないと継続してやらない、という傾向があり、継続できる環境づくりによる意識改革が必要と考える。 ・はじめは、ICT活用に消極的だった先生も、日常使いをすることで便利になったという考えに変わっていった。低学年からでもICT活用ができることの実証になっている。 ・保護者の理解を得るための勉強会、運用ルールの共有などにより、保護者にとってもGIGA端末が「なくてはならないもの」という考えに繋がっている。 |
4.課題把握及び対策の調査研究
今年度の学校の見学や先生、教育委員会の方々とのディスカッションを通して、学校ICT環境の導入・活用それぞれについて、企業視点の課題や対策について議論した。また、GIGAスクール構想による、様々な影響についても意見交換をおこなった。
課題 |
【デジタル教科書】 デジタル教科書の活用が進められているが、なかなか普及しない状況である。デジタル教科書の導入では費用面の負担が課題となっている。費用負担を各家庭に転嫁することも難しい状況ではある。 |
【プログラミング】 必須となったプログラミングであるが、GIGAスクール対応で現場ではプログラミングまでしっかり手が回らない様子がうかがえた。 |
【ICT活用の普及促進における課題】 ①意識面(管理職、先生、保護者、児童・生徒) 管理職:意識の格差が大きい。今回訪問した学校は管理職が教育の情報化に努めており比較的活用が進んでいる。 先生:意識の格差が大きい。先生全員の意識が高く全校で活用が進んでいる学校、数人のトップランナーによって全体の底上げを図っている学校、各方面(管理職、教育委員会など)からその実力を認められ様々な取り組みへの協力を得ることができる核となる先生がいる学校・地域、意識の高い先生が孤軍奮闘している学校などさまざまである。まだまだICTの有効性を認めていない先生方も多い。 保護者:GIGA端末の持ち帰り活用に対する懸念を抱えている保護者も多い。 児童・生徒:他の児童・生徒と比べるとタブレット等をあまりうまく扱えないといった児童・生徒もいるが、意識的な壁はなく与えられた環境を比較的すんなり受け入れているように見える。 ②リテラシ面(先生、児童・生徒) 先生:リテラシには大きな格差がみられる。リテラシの低さがICT活用意識の低さにもつながっていると考えられる。 児童・生徒:うまく扱えない児童・生徒もいるが、学校や家庭でのICT活用を通して情報活用能力を向上させることが一つの目標でもある。 ③利用環境面(機器、利用上の約束事・情報モラル) 機器:今回見学した学校では情報機器トラブル時の対応が明確になっていた。ICT支援員に頼る部分も多く、十分な配置が望まれる。 利用上の約束事・情報モラル:懸念からGIGA端末持ち帰り利用が進まないことが考えられる。持ち帰り利用を進めるうえでは進める側のリテラシの向上が必要である。また保護者の懸念を低減する施策が必要である。今回話をしていただいた中で、ある程度ルールを緩く決めておいて、使っていく中で発生した問題や課題などにその都度適切に対応していくことでルールやモラルの向上を図っていると伺った。日々革新的な変化の起きるIT環境の中で有効な方策だと考える。 ④ICT活用における有効性の実感、活用格差 ICT活用やGIGA端末の活用がなかなか進まない理由(活用格差)は先に挙げた課題が大きいところであるが、ICTの有効性を実感できていないことも理由と考えられる。ICT活用の有効性を実証する実践事例は、文部科学省はじめJAPET&CECほか多くの団体で公開されている。有効性を信じて失敗と成功を繰り返すことで積んできた実践事例であり、何の経験もなしに実感を得ることは難しいはずである。多くの先生がICT活用の有効性を実感して取り組めるよう、1人1台端末などを有効活用した実践事例を体験できる場が多く提供されることが望ましい。 |
5.活動全般を通した感想など
- ICTが提供できる価値が多い中で、あくまで一企業の個人としては機器のベネフィットに留まるような提案や認識しかなかったことを反省している。
- 学校現場の先生が直面している生の声を聴くことができて大変参考になった。特に校長会を含む管理職に「どのような点を訴求していけば、ICT活用を積極的になって頂けるのか」を考えていく必要があると改めて感じた。
- ICT支援員のニーズは高いが足りない状況にあるが、GIGA端末の活用状況はどの程度進んでいるのか、活用を進めるうえでどういったニーズがあるのか知りたい。
- コロナ禍で、一人の親として端末の持ち帰りや、子供の遠隔授業等を実際に見ることができたが、貴重な経験であった。
- 活動を通して多くの良い事例を見聞きすることができた。こういった良い事例を広く伝える活動ができるとよい。
- 学校訪問した際に課題として把握したことが、その後どう改善された、どう変わったか、その後も取材できるとよい。
- 学校訪問や遠隔講演していただけるところは意識が高く教育の情報化が進んでいるところが多いが、教育の情報化が進んでいないところを含め現状を直接把握したい。
- 多くの現場の先生が1人1台端末を活用した良い実践を見たことがない状況にあると認識している。良い実践は多くなされているので、見られる機会を設けられるとよい。
6.おわりに
令和4年度は、GIGAスクール構想による環境整備がほぼ完了し、活用が本格化するものと思われる。また我々の活動意義が問われる時期がきたと感じている。今まで訪問/見学した学校の事例と学校現場の実情をふまえ、良いところ、改善すべきところを、伝えていく活動ができるとより発展するだろう。訪問、意見交換にご協力いただいた先生方をはじめ、学校、教育委員会など様々な皆様に感謝したい。
横浜市立鴨居中学校訪問での記念写真